紅炎 ~プロミネンス~ vol.1 第一次戦闘配備
AC678945β通称アルーシャ。
休眠時間に入った艦のブリッジで、彼は一人巨大モニターの前に座っていた。
機械と生体の中間に属するアンドロイド。
睡眠を必要不可欠としない彼は今、
いわば「夜」ともいうべき時間を迎えた、巨大宇宙艦「ソレンティア」の護りを
一手に引き受けている。
まばたき一つせず、巨大モニターに目を注ぐ彼の延髄には
彼専用の座席から伸びるプラグが繋がれ、
そのプラグを通して、艦内の全ての情報が彼の脳内に流れ込んでくるのだ。
重要な事では、艦の外側に配備された外部レーダーや動力核の稼動状況。
瑣末な事では、各乗組員に与えられた居室の消費電力や照明のON,OFFまで…。
と…モニターの端に突如として赤い輝点が現れた。
それまで、全くの無表情だったアルーシャが緊張の色を浮かべて背もたれから身を起す。
顔を上げると、凛とした声で言った。
敵機機影確認。総員第一次戦闘配備
その声は、延髄に繋がれたプラグを通し、艦全体に響き渡った
敵機機影確認。総員第一次戦闘配備
スピーカーから響いた声に、フィブリスは横になっていた寝台からガバリと身を起す。
ほぼ同時に、艦内の照明が自動的に点灯し、薄暗い室内が明るくなった。
ベットの下に転がされた野戦ブーツに足を突っ込み、ホルスターを装着する。
羽織ったジャケットのジッパーを引き上げながら自室を飛び出すと、
ほぼ同時に、隣の部屋から大柄な赤毛のキャリニアンが飛び出してきた。
「よっす、ハルたん。おはようさん。」
「おっはよ~ん♪フィスたん。な~んか賑やかねv」
並んで廊下を駆け出しながら、口調だけは軽い挨拶を交わす。
赤毛の2人にやや遅れ、寝起きの不機嫌丸出しの顔で飛び出してくる金羽根のルーメと…
「…あんにゃろ。。。」
呟いたフィブリスが、その部屋の前を通り過ぎがてら、力一杯に拳で扉を殴りつける。
「遅せぇぞブラッド!!早くしろ!!」
「だぁぁ。。。今行く、今行くって!!」
わたわたと飛び出してきた茶色い羽根のルーメ。
4人の戦闘員が、それぞれにドックへと走っていった。
敵機機影確認。総員第一次戦闘配備
スピーカーから響いた声が眠りを破る。
艦に与えられた小さな居室の寝台の上でアルニカは目を開けた。
部屋の中は既に灯りが点灯し、寝起きの目には眩しい。
時計に目をやってみれば、ベットにもぐりこんだ時から、まだ2時間しか経っていない。
「うぁ…」
クラクラする頭で目を擦っていると、戦闘員達の足音が慌しく部屋の前を通り過ぎていった。
ヨロヨロとよろけながら靴を履き、上着を手にして部屋を出る。
ドック上部のコントロール室に向って走り出そうとして…
まだ目覚めきっていない身体が、力一杯壁に激突した。
「…何をしている?」
冷静な声が後ろから掛かる。
「あぁぁ…シイム。。。」
研究員のくせに…自分と同じくらいしか眠っていないくせに…
昼間と変わらぬ様子で歩く、この男が憎らしい。
それでも…
「ごめん。手を貸して」
その肩に、縋るようにつかまって…
研究員の2人はコントロール室へと向っていった。
敵機機影確認。総員第一次戦闘配備
スピーカーから響いた声にとらはパチリと目を開けた。
自動的に照明が点灯し、明るくなる室内。
枕元のゴーグルを手探りで手繰り寄せる。
腹の上には柔らかなぬくもり。
「ごめんよ~、にゃ~さん。ちょっとどいてくれるかな~?」
眠る相棒を起したくはなかったけれど…
そっと抱き上げて身体から下ろすと、とらは、わたわたと部屋を飛び出した。
…と、そこで、ひんやりとした足元の感触に違和感を覚える。
「あ…靴はくの忘れた。」
まぁ良いや…と呟いて…。とらはブリッジへと向う。
確か、砲撃用デスクの下に自分用のスリッパが置いてあったはずだ。
敵機機影確認。総員第一次戦闘配備
スピーカーから響いた声に、ローネは思考を中断する。
ブリッジに隣接する情報ルームの椅子の上。
静かな「夜」のうちに済ませたかった考え事は、まだ終わっていないけれど…。
溜息をつきながら、マントを羽織り、ローネは隣のブリッジへと足を向けた。
それぞれが、それぞれに動き出す気配。
プラグから伝わるそれらを追いつつ、アルーシャは、艦を戦闘状態へと移行させる。
ブリッジにも、乗組員達が集まってきた。
そろそろ、集中管理の回路を遮断しても問題ないだろう。
…と、そこで、あることに気付いてアルーシャは眉を寄せた。
宇宙間戦闘機の格納されるドック。
戦闘員達が向うその場所。
工具棚の影に、生体反応がある。
その情報を持つ乗組員は…
「レノ!!とっとと起きやがれ!!」
レノルガードに一番近いスピーカーに向けて怒鳴って…
しかしその直後、アルーシャは、ブリッジの乗組員達が一斉に振り返った事に気付いた。
それぞれに、忍び笑いをするような表情に、ようやく自分の失敗を悟る。
「…うそ。俺、全艦放送で怒鳴った?」
集中管理の回路を遮断する直前。
あちこちで上がる声がアルーシャに聞こえた。
「うっかりラブリーナノス」