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某魔法学園に生息する『瀕死の黒妖精』の背後ブログ。中身がダダ漏れ超えて、もはや剥き出し。       *この中ではPC様同士の面識があれば横レス可とさせて頂きます。
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黒妖精背後
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自己紹介:
黒妖精と違って、のんびり平和に生きてきた「へたれ」。
自称「物書き」だけど、単なる趣味。
2キャラ稼動で、バタバタと遊んでおります。
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本家の日記「追悼」より続き「碇泊」へと繋がるSSです。
規約上の問題から、本家を離れてこちらでアップすることにしました。
わざわざ飛んできて下さった方には、お手数をお掛けしています。
非っ常~に僭越ではありますが、
下記注意書きをご承諾いただけた方のみ、SS本文をお読みください。
よろしくお願いします。


注意書き

 ・当SSはあくまでフィクションであり、現実では犯罪行為にあたるものです。

 ・「本家では出せない」と思う程度には、残酷な描写が多く含まれていますので、
苦手な方、不快感を感じる方は閲覧をご遠慮頂けるようお願いします。

・当サイトのURLとパスをご存知無い方に、SSの内容をお話することはお控えください。

・また、ここでお読みになられた内容はL様情報としていただき、
当人達から語られない限りは、C様には反映なさらないようにお願いします。
 「なんで…なんでなんだよ、フィスさん!!」

喉が切れて、その傷口から血を噴くのではないか…
とらの声は、そう思いたくなるような声だった。
悲痛に高ぶるとらの感情と、凪いで冷えていく俺の感情。
対比する二つの温度。
久しぶりに味わう底冷えのするような温度を、心地よいとさえ感じる自分。
あぁ、完全に『モード』が切り替わっているな…と頭の隅で思う。

「俺とお前が賭けをしてお前が負けた。…それだけの事だろう?」
何を当たり前の事を言っているのか…と俺は言った。
「だからって…何で!!俺達には関係の無いウサギじゃないか!
怪我をしていたのを拾ってきたんだって、アンタだったろ??」

あぁ、鬱陶しい…。
たかがウサギ1匹殺すだけのことで、何をこいつは騒ぎ立てているんだろう。
人を殺したいと、それが本気だと言うのなら、何故ウサギ1匹で躊躇う。

俺は手を伸ばして、
とらの腕の中に抱え込まれた薄茶色の毛の塊を鷲掴みにした。
のんびりと遊んでいる時ならば、
気持ちを穏やかにしてくれるかもしれない、柔らかな手触り。
けれども、今はただの“対象物”以外の何者でもない。
庇うように身をひねるとらよりも早く、ソレに向かって手にしたナイフを振るう。
その動物特有の長い耳が片方、切り落とされて地面に落ちた。
ぱたり…という微かな音。

「なっ…!!」

苦痛を訴えて暴れるウサギをきつく抱き込んだまま、
とらが、色素の薄い灰色の目を一杯に見開く。
慌てて耳を拾い上げて、元の位置に戻してみて…試みるサナスは動揺のあまり失敗した。
馬鹿だな…と思う。
切断した傷口はサナスでは治りきらない。必要なのは物理的な手術だ。
止血の仕方も、傷口の保護の仕方も教えたはずなのに、何一つ守ろうとしていない。
戦場で誰かが負傷した時、応急処置の判断を誤れば仲間を死に近づけるのに、
殺したくないと言いながら、何故間違いを繰り返すのだろう。

「お前がグズグズしてるからだろ?」

薄く血の付いたナイフを、
俺は、見せ付けるかのようにとらの眼前に突きつけた。
血の臭いがとらの嗅覚を刺激するように…
その血で、とらの頬を汚そうとでもするかのように…。

「俺はお前にソレを殺せと言ったんだ。
さっさとやらなきゃ、今度は反対の耳を切り落とす」

綺麗な綺麗なとら。
本当に人を殺したいのなら、お前もこの血に塗れるべきだ…。


◆◆◆


とらの戦闘訓練を引き受けるようになってから、多分10ヶ月くらいだろうか。
「そろそろ頃合か」と考えた俺は、寮の裏手の森の中に、ちょっとした罠を仕掛けた。
タヌキとかイタチ等の小動物を捕獲する為の罠。
何度かの失敗と、何度かの目的外の動物。
1週間程粘って手に入れたのは、小さな薄茶色の野ウサギだった。

金属のゲージの中で、不安げに暴れるそれを抑え付けて、
ポケットから小さなアンプルを取り出す。
普段は携行用の救急キットの中に入っているそれの中身は、麻酔薬だ。
首の近くの皮膚をつまみ上げて、ほんの少量を皮膚の下に流し込んでやる。
自分であれば、僅かに痛覚を鈍らせることができる程度の量。
けれども、小さなウサギにとっては十分すぎる量だ。
ほどなくして、ウサギの身体はぐったりと力を失う。
殆ど意識を無くしかけたそれをゲージから取り出して、地面に横たえた。
胴体を抑えられ、力なく投げ出された後ろ足。
その後ろ足をめがけて、俺は鞘に包まれたままの剣を軽く振り下ろす。
小さな身体の細い骨にぶつかる、頭蓋や頚骨を砕く重量を持った残酷な凶器。
パキリ…という音と共に、抑えていたウサギの身体が小さく跳ね上がった。
けれども、麻酔に犯されたウサギは逃げ出すことはない。

骨と筋を潰して血を流す傷口を、
あたかも手当てをしようとしたかのように、少し汚いタオルで包みこんで…
俺は、そのウサギをとらの元へと抱えていった。

「森ん中で訓練してたら、見つけちまったんだ。
悪りぃんだけど、ちょっと面倒見てやってくんねぇ?」

ぐったりとしたウサギを差し出した俺に、とらが目を丸くする

「俺?アルじゃなくて?」

「うん。ちょっと周期的な問題で…な…
アルは、多分、俺のことで手一杯になると思うから」

そろそろ俺の“身体の具合が悪くなる時期”だから…と、
そう告げると、とらは二つ返事でウサギを受け取った。

「おっけおっけ!そういうことなら任せとけ」

きっととらなら、親身になってウサギの世話をするのだろう。
大切に、大切に…情を移すのだろう。
…それが俺の狙いだとは気付きもせずに…


◆◆◆


「だ、だめだ、どうして、いみがない、いみ、いみ、」

意味が無いのはお前の言葉だ。
動揺しまくったとらの言葉を聞いていたら無償に腹が立って、
俺は、思い切りとらの身体を蹴り飛ばした。
倒れこんだ拍子に緩んだ腕の隙間から、茶色い毛の塊がヨロヨロと這い出す。
今、コイツに居なくなられる訳にはいかない。
足を怪我したウサギくらい、手で捕らえるのも造作も無かったが、
何となく面倒くさくなって、俺は手の中のナイフをウサギに向かって放り投げた。
右の後ろ足、狙いより胴体寄りに突き刺さったナイフ。
急激な出血や外傷性ショックで死なれては困るのに、少し手元が狂ったらしい。
こういう器用さを要するスキルはいまいち苦手なんだなぁ…と溜息を漏らす。

地面に縫いとめられてもがくウサギを、間抜けのように見つめるとら。
さっき、倒れこんだ時の衝撃で落ちたのだろう、
とらのポケットに入っていたばずの煙草が、足元に落ちていた。
勝手に拾い上げて、口に咥えた一本に火をつける。
口の中に広がる苦味が、今の気分にはちょうど良かった。
吸い込んだ煙をゆっくりと吐き出してから、
俺は、ウサギの大腿から生えるナイフに手を掛ける。
抉るように捻る動きに、茶色い毛の生き物が奇妙な声を上げながら暴れた。

青白く骨ばった腕が俺の腕に絡みついてくる。

「あ、やめ、ごめ、ごめんなさい、やめて、どうして」

ナイフを握る片腕に、両手でしがみつかれては、いくら俺でも腕を動かすのは困難だ。
溜息をついて、俺は空いている手で口の煙草を摘み上げる。
細長いパーツを斬り落とされて血を流す傷口、
そこに煙草の火を押し付けようとした時、ナイフ側の腕に掛かっていた力が消失した。
煙草の先から立ち上がる嫌な臭い。
煙草の火が焼いたのは、ウサギの傷口ではなくとらの手の甲だった。
身を挺して、この灼熱からウサギを護った根性は見上げたものだけれど…
馬鹿なヤツ、たかがウサギのために。
煙草を皮膚の上で消す火傷は、軽いものじゃない。
きっとこの先、何日も痛むだろう。ひょっとしたら、また熱を出すかもしれない。

「どうして、だってまだ、あぁ、あ、まだ、えさをあげてな、ないよ、じかんがえさの、だって…!」

「甘えるなよ、とら。
今日の餌がやりたかったなら、何で俺を倒さなかった?何で勝たなかった?」

「どうしてっ!どうしてどうしてどうしてどうしてしぬんだよぉっ!
なにもない、なにもしてないよっ!?
おれがよわいから、よわいのはおれだから、なんで???なの、」

完全に我を失った叫びが耳に刺さって、苛立ちが加速する。
消えた吸殻を足元に落として、俺はそれを踏み潰した。
そして、ついでのように、
逃れようと虚しく地面を掻くウサギの前足に、体重ごと自分の足を乗せる。
再び腕にしがみついてくる、とらの冷たい手。

「ごめんなさいゆるして、だめだ、だめだだめだだめだだめ」

「だから?」

とらの左肩に手を掛けた。
決まった方向に力をかけてやれば、肩の関節など簡単に外れる。

「実戦の時、護りたかった誰かを傷つけられても、お前は同じ言葉を吐くのか?」

苦痛の悲鳴。
煩いとは思うが、パニックの叫び声よりはずっと耳に心地良い。
襟元を掴んで引き寄せ、涙に潤んだとらの瞳を睨みつけて吐き捨てた。

「とらが何と言おうとこれが戦いで、アルが何と言おうとこれが俺だ。
とらは負けた。これ以上話す意味は無いな…」

突き飛ばすように手を放す。
ヨロヨロと、できの悪い木偶人形のような動きであとずさって、とらは尻餅をついた。

「俺は楽には殺さねぇよ?」

突き立ったままのナイフを跳ねるように引き抜けば、
細いウサギの脚は、皮一枚を残して取れかかる。
地に縫い付ける拘束は無くなったはずだが、もはやウサギが逃げ出すことは無かった。
もう一方の耳を削ぎ落としてから、さてどうしようかと考える。
そういえば昔、尋問していた相手に死なれたことがあった。
あぁ、そうだ。あの時は顎を封じていなかったから、舌を噛み切られたんだ。
ウサギは自分の舌を噛み切ることはしないが…。
早く苦痛を終わらせてやりたいと、そのために殺してやろうと、
とらがそう思えるようにするには、どんなパフォーマンスが最適だろうか。

「…そういえばウサギの前脚って、剥製にして幸運のお守りになったっけ…」

既に血に濡れたナイフを握りなおした時、それは起こった。
灼熱する魔力の塊が、這い蹲る茶色の毛皮を押し包む。
小さく小さく内側に収束する、まるでブラックホールのような小爆発だった。
本能的に飛び退っていなかったら、きっと自分も巻き込まれていただろう。
跡にはただ黒く焦げた地面が残るばかり。

発動させた右手を掲げたまま、ダラダラと涙を流して喘いでいるとら。
できることなら、自分の手で、刃物で…
肉と骨を切り裂く感触を味わってもらいたかったが、贅沢は言えなかった。
一振りして刃に残った血液を振り飛ばし、ナイフを腰の後ろにしまう。
呆けたままのとらの襟首を掴んで俺は言った。

「しっかり寝て、明日の訓練休むなよ?
寝れなかったとかで体調崩しても、そのまま続けるからな」

多分、耳には届いていないだろうし、不可能だろう。
ここが戦場ならば、例え親が死んでも、恋人や親友が死んでも、
休める時には休んで、次の戦いに備えなくてはならないが…。
この平和な学園では、どこまでを教えれば良いのか、いつも迷う。

とらの襟元から手を放し、踵を返しかけた時、それを見つけた。
薄茶色の短い毛が片面に生えた、細長く薄い欠片。
一番最初に切り落とした耳が、魔力の爆発の外側に残されていたらしい。
一旦振り返って、
とらがこちらを見ていないことを確認してから、こっそりとその欠片を拾い上げる。
とらをその場に放ったまま森の中をずっと奥に進んで、
すっかり離れたあたりで、適当な木の根元にそれを埋めた。
とらが落ち着いたら、ここに連れてこよう。
残された、たった一枚の耳が埋まっていることを伝えよう。
その時には、歌い慣れた鎮魂歌の一つでも歌ってやろうか…。
「護れなかった」という事実を、「戦う」という意味を、
いつでもとらが思い出せるように…。

綺麗な綺麗なとら。
お前は本当にこの道を行くのか…?
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